「IHヒーターがいいの?」「ガスがいいの?」という加熱機器の選択は 熱源の選択の視点だけではなく 換気扇の選択も誘導して考えることがポイントです。熱源を選ぶことと換気扇のタイプはとても密に関連しています。キッチンにおける熱機器のシェアは、ガスが95%と圧倒的に多く、換気扇もまたガス熱から発生する空気を換気することに特化した構造になっています。 ですからせっかくIHを導入しても換気扇が従来のガス対応のままですと、上昇気流のない空気を排気しているだけで、換気としての役割は果たしていないことにもなるのです。
それではキッチンにおけるガスエネルギーの導入プロセスを検証しながら換気扇との関係をみていきましょう。
「ガス」と「電気」 このエネルギー戦争は明治時代から始まりました。
東京ガスが1885年(明治18年)創設、東京電力の前身である東京電灯は1886年(明治19年)創設で、ほぼ同時期に誕生しています。電気会社が台頭すると電気の普及に伴って、 照明はそれまでのガス灯から電気へ移行し、ガス会社のエネルギー商品は他の商品へ活路を求めることとなりました。
当時のキッチンは薪や炭を燃料にかまどで煮炊きを行っていたので、主婦の家事労働の身体的負担も重く、時間もかかっていたこともあり、ガス会社は、このかまどにバーナーを取り付けて、キッチンでの作業負担を軽減することに ガスエネルギーの使途を見いだしていきました。
ガスバーナーを熱源にした加熱調理は キッチン作業における主婦の今までの悩みを解決した画期的なキッチン機器改革商品として、当時の主婦たちの絶大な評価をえて 大ヒットします。
ガスを熱源としての加熱機器の誕生は、キッチンスタイルにも 大きな変化を及ぼします。
それまでは環境の条件もあり井戸水を汲んだり、かまどで煮炊きをしたり、と キッチンは食事をつくる、洗い物をする等の 作業の場所として、家の外にありました。
それが、ガス機器が普及することと水道の整備普及により 家の中へと空間の位置づけをされていきます。その後、1970年代 大阪万博のときに ガス機器やシンクキャビネットが1枚の天板でつながれた「システムキッチン」がドイツから輸入されて現在のような「システムキッチン」のカタチになっていきました。しかし、まだこのときはキッチンに組み込まれているガスコンロは高価なものであり、外国のガス種とは異なるため国産のシステムキッチン用のガスコンロが強くのぞまれるようになりました。そんな背景があって1978年(昭和53年)ハーマンがキッチン組み込みのガスコンロ第1号を発売しました。
このように キッチンにおけるガス導入の歴史は長く、なじみもあり熱源としてごく当たり前のように存在していましたから、換気扇もまた、ガスの熱気流を排気する構造で製造されてきています。
ガスの炎は上昇気流を生みます。消防法ではコンロの上面から換気扇のフィルターまでの距離は80㎝以上と規定がありますが、ガスは上まで油煙が上昇するので換気扇に届いて吸い込みます。
換気扇のカタチや種類の変遷はここでは割愛しますが、整流板のついたフードは板に油煙がぶつかることで対流が起き効率的に油煙を吸い込みます。 車の運転中、窓を数ミリだけ開けてタバコを吸うと煙が窓の隙間に吸い込まれて外に流れていく原理と同じです。
一方、IHヒーターは炎が出ないため周囲の空気を暖めることができないので、上昇気流は弱く結露が発生しやすく、上方の換気扇まで油煙は届きません。この点を解消するために下方面から対流を発生させ水蒸気は水になってポケットにおさまるIH専用フードが発売されています。
このように、ガス機器の普及は換気扇の構造や変化にも深くリンクしており、キッチンの加熱機器の製品の比較選択の際は、換気扇の機能も熱機器に合致したものであるか、どうかも機器選びのかかせないポイントになるのです。
プロフィール
阿部 美子 / キッチンスペシャリスト
専業主婦を経て二人の子どもを一人で育てながら 水廻りメーカーのアドバイザーとして約10年、従事。「キッチン」の奥深さと魅力に惹かれ、キッチンスペシャリスト資格、(社) 日本ライフスタイル協会北海道唯一のリビングスタイリスト講師、CS(顧客満足クレーム対応)スペシャリスト 日本実務能力開発協会認定コーチの資格取得。(社) 日本デザイン学会 鈴木 昇氏に師事。「Happyキッチン講座」「リビングスタイリスト講座」「キッチンお悩み相談室」を随時開催。「お悩み解決!ココロもスッキリ!快適なキッチンから始まる楽しい暮らし、家族の笑顔を応援します」をコンセプトに始業。ララプラスキッチン代表。
イントロダクション
毎日つかうキッチン空間だからこそ気持ちよく心地よい空間でありたい。おかあさんのニコニコした顔から家族の安心が生まれます。おかあさんがいつもルンルン♪お料理をつくってルンルン♪おかたづけができる、そんな暮らしのヒントを女性のミカタ(味方&見方)で お伝えします。→Blog「キッチンアドバイザーのミセスのミカタ」