寒冷地・多雪地域の春先にかけて多い住宅トラブルに「すが漏り」があげられます。
軒先につららがたくさん下がっている・軒天にシミや塗料の剥がれがある・冬に晴れているのに雨漏りのような室内への漏水が見られるなどの症状がありましたら要注意です。
雨漏りとは発生のメカニズムが異なりますが、室内に入り込んだ水が木材を腐食させ、住宅の耐久性を著しく低下させたり、湿気によりカビを発生させる点では被害リスクは雨漏りと同じです。
右写真は中古一戸建て住宅のホームインスペクションで実際に天井裏で発見された木材の蟻害(ぎがい)の様子です。
蟻はジメジメとした湿度の高い場所を好みます。
カビや蟻害や腐朽によって木材の強度が落ちると建物の耐震性に影響を及ぼします。
柱や基礎周りなどに被害があった場合は修繕工事も大掛かりになり、費用も大きく膨らむ可能性があります。
すが漏りが発生したら、手遅れになる前に早めの対策をとる事が大事です。
そもそもなぜすが漏りが発生するか。すが漏りが発生するまでの流れをご説明します。
①家の中の暖かい空気や春先の暖かい日差しによって、屋根に積もった雪が解けだします。
②解けた水が軒先へ流れます。そして夜間の冷たい外気によって軒先で塊となって凍りつきます(つらら)。
③これが繰り返し起こると、軒先で凍った氷の塊によって雪解け水が遮られ、ダムのように屋根上に溜まります。
④その行き場のなくなった水が屋根板金のハゼ(屋根のスジ状に見える部分)から染みて、雨漏りのように漏水します。
これが雨漏りのように見えて雨漏りとは違う、「すが漏り」です。溜まった行き場のない雪解け水が漏ってくるので、雨や雪が降っていなくても起こるのです。
また、すが漏りは屋根の形状や、スノーダクト屋根に関係なく発生します。
すが漏りを防ぐ対策として最も有効なのが、天井の断熱強化です。すが漏りの原因は、室内と屋外の温度差にあるためです。
屋根に室内の熱が直接伝わらないようにすることによって、屋根に積もった雪が解けるのを最小限に抑えることができます。
また、雪を積もらせないようにする、つららをこまめに落とす、屋根裏と外気の温度差を無くすために屋根裏に外の空気を入れる(通気させる)ことも効果的です。
目に見える症状は雨漏りと変わらないため、屋根板金業者などへ屋根防水工事や雨漏り修理を依頼する方が多いのですが、構造上問題のない屋根でも、行き場のなくなった雪解け水が屋根のつなぎ目から水漏れを起こします。
屋根自体の防水性能アップも多少は効果はありますが、雨漏りとはそもそも原因が違うことをよく理解しましょう。
「構造耐力上主要な部分」と「雨水の浸入を防止する部分」については保険の対象となる瑕疵担保責任保険(新築)・既存住宅売買瑕疵保険(中古)ですが、すが漏れは、屋根の欠陥(穴が空いていた等)が原因で起こる雨漏りとは違い、適切に屋根の雪かきや断熱材の施工を行っていると発生しないと判断されるため、保険金の支払対象外です。
しかし瑕疵保険加入前の適合検査時には屋根裏の断熱材の厚み測定などは行いません。保険があるから屋根からの漏水があっても大丈夫、というわけではないのです。
すが漏りは事前に防ぐことが難しい事象ですが、水や湿気は建物のあらゆる部分に不具合を発生させる原因になります。
手の施しようがなくなる前に早期発見・早期治療を行うことが必要なため、定期的に点検を行い、水シミ跡など見られた場合は早めに専門家へご相談されるとよいでしょう。
プロフィール
大林 厚志 / 一級建築士・一級建築士施工管理技士
株式会社北工房執行役員、一級建築士。現場監督経験後、設計事務所にて住宅・商業施設等の設計・監理業務に携わる。現在はホームインスペクター(住宅診断士)や住宅性能評価員としても活躍。住宅関連セミナー・建築士資格試験予備校等、講師経験多数。
イントロダクション
「家」は生活に欠くことができません。家庭環境、転勤、資産や目標など「家」を求める理由は人それぞれですが、誰もが幸せになりたいという夢をお持ちです。北海道の建築に携わって30年。新築設計だけでなく、ご自宅のトラブルなども含め、さまざまな「家」に関わるご相談を承ってきました。そんな私たちだからこそお伝えできる「幸せになるための家づくり」とは。