第2回 契約書って、ホント、大事なんです。

今回は、ちょっと難しい契約の話です。ですが、これから家を買おうとする方やリフォームをしようとする方はもちろん、そのような予定はない方でも、社会生活には契約は切っても切れない大事なものです。

ちょっと考えてみてください。これまでの人生で何回契約書に署名押印をしたことがありますか?部屋を借りるときの賃貸借契約書や車を買うときの売買契約書など、契約には様々なものがあります。

よく、「契約書を作成していないのですが、裁判をすることができますか。」という質問を受けます。契約書というのは、基本的には、『こういう合意があった。』という証拠になるものなので契約書があるに越したことはもちろんありませんが、契約書がないからといって裁判ができないというわけではありません。最終的には、どこまで合意を立証すること(証拠によって証明すること)ができるかという問題なのです。

いざというときの味方、契約書

日本では、厳格な契約書を作成することに躊躇を感じる傾向があるようですが、これは、契約した相手との信頼関係を重視し、「まさか、約束したことは裏切らないだろう。」という期待感のあらわれのようです。また、契約書を作成したとしても、契約書に合意した内容すべてを盛り込まなかったり、「契約書にはこのように書いてあるけれど、実際には、〇〇という話しになっている。」等、実際の合意内容と契約書の内容が異なるという場合も少なくありません。しかし、トラブルが裁判沙汰になれば、このように契約書に書いていない約束をどこまで証明できるかという問題になり、そして、そのような証明は決して簡単なものではないのです。

結局、契約書の存在が初めて効果を発揮するのは、契約上の約束が破られてしまった場合です。もちろん、契約書があるからこそ、約束が破られないように互いに牽制し合う効果も期待できるでしょう。契約上の約束が破られてしまった場合の多くは、契約をした当事者同士の関係は悪化しており、互いに自分に有利に交渉を進めようとします。そのような状況になってから、「契約書にはそう書いてあるけど、実際には・・・」といった話しをしても、きっと、「そんな話しはなかった。」と言われてしまうでしょう。また、膨大な内容の契約書について、内容を知らない、説明を受けていないと後から言っても、その契約書に署名押印している以上、そのような主張はなかなか通りません。

署名押印は慎重に!

このように、契約書は、そのような合意があったことを証明する大切な証拠になりますので、契約書に書いてある詳細な内容を軽視することはできません。「合意」というのは、二人以上の意思が合致することなので、契約書に署名押印を求められたときには、契約書の内容について質問をすることは当然できますし、場合によっては、契約書の内容に対して変更を求めることも可能です。契約のなかでも、家を購入するときの売買契約や家の建築を依頼する場合の請負契約は、金額も大きく、一生に一度の買い物といっても過言ではありませんので、慎重になっても慎重すぎると言われることはないでしょう。このような契約をするときには、「当たり前のことが書いてあるだけだし、多分、問題はないでしょう。」などと安易には考えず、時間がかかっても、一行一行しっかりと目を通すことはもちろん、場合によっては、専門家等に事前相談することもお勧めします。

林 眞紀世

プロフィール
林 眞紀世 / 弁護士

札幌弁護士会に所属する弁護士。民間航空会社勤務を経て、平成15年から弁護士に登録。平成18年10月からはパークフロント法律事務所を開業。当時は、北海道初の女性弁護士2人の共同法律事務所だったことが話題に。一般の方から企業まで、幅広く一般民事、企業経営に関する事件、親族間の事件などに取り組んでいる。

イントロダクション
法律は難しいとか、法律事務所は敷居が高いなどとよく言われますが、「難しいこともできるだけわかり易く」をモットーに日々取り組んでいます。このコラムでは、住宅や不動産などにまつわる法律問題にわかりやすく触れていきたいと思います。